救助者幻想
■概要
「この人を助けたい」「この人に尽くしたい」という思いが生じ、相手の望むことをしてあげて、相手の理想のような人になってあげていること、これを「救助者幻想(レスキュー・ファンタジー)」、または「救済者感情(メサイア・コンプレックス)」といいます。
これは恋人関係でよくみられます。しかし、これは人を助けたいとか人を救いたいといった一般的な慈悲感情ではありません。本人もこれを母性と誤認していることが多いです。相手を救いたいのは本心ではなくて、この人を救えるのは私しかいないと考えている「幻想」なのです。
■問題は何か
相手のために尽くせば、相手は当然、居心地がいいと感じます。そうすると相手の欲望は次第に膨らみ、これもしてほしい、あれもやってほしいとなります。好きな人から頼られれば嬉しいですからどんどんやってあげるわけですけれども、それにも限界があります。そして次第に、「こんなに相手のために頑張っているのに私は報われない、愛されていると感じられない、振り回される、疲れる、イライラする」と感じることが多くなります。
メカニズム
■精神分析
救済者幻想をもった人は一見、思いやりがあって優しく、人情味があって義理がたいのですが、これは心の奥にしまった怒りの反動形成であり、自分につらく当たってきた人へのあてつけでもあります。つまり、人に「強迫的な世話焼き」をすることによって、自らを救っているのです。相手を救っているのではありません。言い換えれば、頼られることでしか自分の生きがいや自分の価値を感じられなくなっている状態です。これは、低下している自信を回復させる手段でもあり、人に嫌われたくない感情を補うものでもあります。
理想論
■道徳論が通用しない場合
人生論や道徳論では、「人のために生きれば自分に返ってくる」とか、「人に親切にすれば自分も親切にされる」と言われています。確かにそういう面もあります。人間としての理想の生き方なのかもしれません。しかし、それが必ずしも通用するわけではありません。
たとえば、相手が何らかの精神的人格的な問題をかかえている場合は、いくら相手に優しくしても、その優しさを次は自分がもらえるとは限らないですし、むしろ搾取されて終わってしまう場合もあります。
精神的問題
■概要
精神的問題を抱えている人に時折みられるのは「私の気持ちは誰にもわからない」という発言をすることです。そういう人が他人を助けようとしたり、楽しませようと奮闘しがちです。